2010/10/01

研修レポート(第37回国際福祉機器展)

第37回国際福祉機器展 H.C.R.2010国際シンポジウム

『ヨーロッパの医療制度改革の動向と評価』

講師 ブルーノ・パリエ氏

松浦明子

医療制度の目的は、①疾病に陥った低所得者に対する支援②疾病に陥り、就労不能となった給与所得者の所得保障③国民全員に対する医療サービスの提供の約束の三つがあり、どの国も同じゴールを目指すが、その為の道筋はさまざまである。
代表的な医療制度として、①公共型の医療制度(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、イギリス、イタリア、スペイン。さらに、ポルトガル、ギリシャ、カナダ、オーストラリア及び、ニュージーランドの各国の一部)②医療保険型の医療制度(ドイツ、フランス、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ。さらに、程度は低いが、日本、オランダ、及び中央・東ヨーロッパの一部諸国にも存在。)③自由形/最貧者救済型の医療制度(主に、アメリカ。中央・東ヨーロッパと中南米の一部諸国も改革の結果としてこの制度を採用。)

スウェーデン:『開業医をホームドクターにする=患者は医療サービス提供者を自由に選択できる』という概念が実用化されており、最初症状を電話で伝え、指示を仰ぎ、必要ならホームドクターに、必要があれば専門医に診てもらい、過剰な検査により医療費が嵩むのを抑えられ、プライマリーケアの実現がされている。1000人当たりの人口による医者の数も3.5人とOECDの平均値を得ている。患者の医療費負担の上限が、年間199ユーロと定められている。医療費制度の財源では、医療費全体の30%が地方税により賄われている。医師の報酬は、給与所得者となり、安定している。スウェーデンでは、乳児死亡率は2.5%と世界第一位、損失生存年数は2610とこれも世界第一位である。


フランス:フランスでは、開業医に自由があり、どこでどんな診察をしてもよい。患者も選ぶ。よって、報酬目当てもあり、北部は富裕層が多く、そこで開業したいと望む医者も多く、医療ミスも少ない。逆に南部では、貧困層が多く、そこでは医療ミスも多い。また、外来医(民間が提供)の割合も、医師全体の50%で、HIVやガン、糖尿病、血管性疾患などの高額医療の費用は、医療費全体の50%も占める。患者の利用費負担額は、ほぼ保険でカバーするシステムなので、自己負担は実質ない。医療費の自己負担(共同負担)という概念は、患者に危機感を持たせるためと、制度の乱用をさせないためでもあり、有効的である。一方で、フランスの様に、患者自己負担が発生しない場合は、医療費も必然的に高くなる。医療費制度の財源では、所得の中の20%が医療費となり、社会保険料からも医療費に充てられる。医療費の運用は、70%を人件費に充てられる。医師の報酬は、出来高払いである。これは、患者の選択の自由を与えるが、回数の多い診察が必要になると、医療費が嵩む傾向がある。医療制度を評価する上では、患者にとって明らかな格差がある。フランスでは、もっとも優れた医療制度と言われているが、乳児死亡率は3.8%と、先進国からするとあまり良くない。


ドイツ:医療費制度の財源では、所得の中の14%が医療費となり、他にも社会保険料、たばこ税も医療費に充てられる。医師の報酬は、出来高払い。これは、患者の選択の自由を与えるが、回数の多い診察が必要になると、医療費が嵩む傾向がある。

イギリス:多くの待機患者が存在する。医師の報酬は、どれだけの患者数を抱えたのか(登録したのか)により決まる。『Evidence made medicine』という考えが浸透している。


日本:1000人当たりの急性患者の人口による病床数は8.1床と、OECDの平均値よりも高い。オランダと比較しても、高いことが言える。医師の報酬は、出来高払い。これは、患者の選択の自由を与えるが、回数の多い診察が必要になると、医療費が嵩む傾向がある。日本では、医療アクセスの平等性が高く、豊かな人、貧しい人、関係なく医療制度を平等に利用することができる。これは、世界でも水準が高い。また、女性・男性の平均寿命も世界一で、乳児死亡率も、スウェーデンに次ぐ世界第二位である。総医療費のGDP割合を見てみると、8.1%と世界一位で、素晴らしい結果となっている。アメリカの様に、どれだけお金をかけたかどうかということが、問題なのではない。日本の様に、コスト効率の結果を見たら、素晴らしい医療制度だと言える。


オランダ:1000人当たりの急性患者の人口による病床数は2.9床。

アメリカ:社会的拠出と労働コストの問題があり、医療費が高いアメリカでは、比較的労働コストがかかる。患者は、所得に応じて個人的に保険に加入するか、会社で決められた保険に加入する。また、加入した保険によって、受けられるサービスと受けられないサービスがある。利用できる医師も異なる。医師の報酬は、出来高払い。これは、患者の選択の自由を与えるが、回数の多い診察が必要になると、医療費が嵩む傾向がある。医療制度を評価する上では、患者にとって明らかな格差がある。総医療費のGDP割合を見てみると、諸外国に比べ、16%と一番多く使っている。

結果として、医療制度に関する政策と改革に関する相互に矛盾する4つの目的(利用サービスの利用面に関する平等性、医療サービスの質、財政面の健全性、関係者の自由度)を上手く達成できる医療制度の構築が望ましい。


質疑応答

日本において、70歳以上の人に係る医療費は、若い人に係る医療費の4~5倍(他のヨーロッパ諸国では、2~3倍)と高額で、これは、日本にとって問題なのではないか?また、高齢者負担を1973年より少なくした事と、治らないものでも治療しようとして高齢化が進み、悪循環を作っているのではないのか?

A:長寿化は成功の証である。70年代の少子化により、現在昔より高齢者の数が増え、負担が大きくなっているのが現状で、これはフランスなどでも同じ。1973年の日本の医療制度改革当時、高齢者は貧困だった。今では、60~50歳の人は裕福になり、逆に若い世代が貧困になり、その若い世代で支えていかないといけないから、とても大変になる。今後は、出生率を高めるために、若い人が安心して子育てができる方向へ進むべきである。また、医療制度の持続可能性を考えた場合、人口が必要なので、児童サービス提供の強化を進め若い人をサポートしていくべきである。スウェーデンでは、この動きが活発化している。


医療従事者の不足として、産科医・緊急対応のできる医師不足が、24000人と日本では伝えられているが、どのようにしていけばよいのか。

A:医療従事者不足といっても、質の向上、総合医の必要性、ホームドクターの必要性を検討することが大事だと思う。但し、政治的にフランスや日本では、ゲートキーパーとなるホームドクターの概念を取り入れるとこは難しいかもしれない。なぜなら、自由に開業できるから、医師がうまく分布しないためである。しかし、機能分化をすることは大事である。スウェーデンでは、専門医のできる範囲が決められており、疾病に応じてうまく分布されるようになっている。これは、医大も新しい疾病に対応して変化しており、今日の慢性疾患などにおいて、病院や医師、看護師、医療制度がきちんと対応しているかという『調整』が行われており、非常に大事である。

終末期医療について、日本では、医師は、生命を延長させることが良いこととされ、尊厳死が認められていないが、ヨーロッパではどうか?これでは、人格の保持ができないのではないか?

A:ヨーロッパにおいては、オランダやスイスのみで尊厳死が認められている。フランスでは、この問題は、とてもデリケートな問題なので、みんな話したがらないし、議論もしない。そもそもフランスでは、医師はやりたいことをし、やりたい治療をし、患者を選ぶから、きっと調整はできない。
医師は、絶対に尊厳死を決定してはいけないし、日本同様、延命と治療をするべき。尊厳死を認めるか、認めないかという問題は、政治的なものであり、もし認めるのであれば、医師一人に負担がいかないように、国会や病院で委員会を設けた方がよい。また、それ以前の問題として、死の前の苦痛緩和ケアも考えるべきで、これは医療従事者の責務である。



感想:海外の人が講演をする福祉関係のシンポジウムに初めて参加したので、とても新鮮で、日本人以外の人からみた日本の医療制度の感想も知ることができて、とても勉強になりました。以前も、スウェーデンの社会福祉学を勉強した際に、講師の先生は、日本人だったので、やはり日本寄りの講義だったのだなということもわかりました。
今回のブルノー先生によると、日本の医療制度は、世界から見ると、私たちが思っている以上に、とても素晴らしい医療制度だそうです。日本国内にいるだけでは、ここが問題、あれが問題という視点からしか見えませんが、大きな枠組みで見た場合、数値的に見ても世界最高水準にある医療制度だということが分かって、ひと安心しました。しかし、問題提起ができるからこそ、改善し、良いものへと発展していく。その過程を得てきたからこそ、今となって『成功している日本の医療制度』と言われる様になったと思うので、今日の日本で問題視されている事が悪いことだとは思いません。いくら世界で良くても、日本で実用され適応されなければ、私たち日本人にとったら、良くないものでしかないので。しかし、良いところは良いとして、もっと良いところをどう生かしていくか、ということにも目を向ける必要もあるのだなと思いました。
日本の医療制度を改革するために、『こうした方が絶対いい』という私のアイディアは今のところありませんが、(今の私が、日本社会に貢献できる事と言えば、世代的にブルーノ先生の言う、出生率を高めることに貢献することでしょうか?)これから、在宅介護の国際比較の論文発表であったり、シンポジウムみたいなものがあれば、是非参加したいです。また、自分でも勉強してみたいです。